ひだ探訪帖 1
春の訪れを告げるもの

日本列島の中央、岐阜県の北部に位置し、北アルプスの山々に囲まれて昔ながらの伝統が息づく町、飛騨高山。2005年に10市町村が合併したことで日本一の面積を誇る高山市は、およそ90%が森林に覆われており、標高436m~3,190mという大きな標高差を持つ自然豊かで広大な土地が広がっています。

「ひだ探訪帖」では、高山市で生活する私たちが探り歩いた、リアルな飛騨の記録を紡いでいきます。

季節を彩る高山祭

高山市では、国指定重要無形民俗文化財やユネスコ無形文化遺産の指定を受け「日本三大曳山祭」や「日本三大美祭」にも挙げられる「高山祭」が毎年開催され、43万人以上(2017年統計)の多くの人が訪れています。「高山祭」とは4月14・15日に行われる日枝神社の例祭である「山王祭」(春の高山祭)と、10月9・10日に行われる櫻山八幡宮の例祭である「八幡祭」(秋の高山祭)の総称です。春の山王祭では12台、秋の八幡祭では11台の屋台が町を練り歩きます。

 

高山祭は今から400年以上も昔、金森氏が飛騨地方を治めていた時代に、豊作を祈願する山王祭と、豊作に感謝する八幡祭として誕生しました。高山祭は朝の神事から始まります。神前にて獅子舞や闘鶏楽を奉納後、神楽舞と倭舞が奉納される祭典が執り行われます。午後には神様を神輿へ乗り移し、氏子の繁栄を願って総勢約300人で家々を巡行する「御巡幸」が始まります。御旅所(おたびしょ)に到着すると、神輿はここで一泊します。午後からは各組の屋台蔵から屋台も出発し、御旅所前の所定の位置に曳き揃えます。屋台の提灯に灯りをともし、暗くなった町中を練り歩く「夜祭」は、昼間とはまた違った雰囲気で、暗闇の中に浮かび上がる屋台の灯りは趣深く、幻想的です。盆地の高山では「春の高山祭が終わると春がやって来る」といわれます。

しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で規模を縮小し、神事と各屋台蔵での屋台の公開のみとなりました。

今では目玉となっている屋台が高山祭に登場したのは1718年頃といわれています。300年もの間、火災で焼失したり、改修・改築を繰り返しながら各組が屋台を大切に受け継いできました。
飛騨産業の社員の中でも毎年地域での役を担い、祭に参加している社員も少なくありません。祭の時期が近づくと、準備や練習のために定時が終わればいち早く帰宅したり、当日は会社や学校を休むことも、この地域に住む人々にとっては物心ついた頃から続く、ごく自然なことです。

 

屋台はそれぞれの組で特色があります。飛騨産業の社員である修理工房の阿多野さんが所属する大國台(だいこくたい)は、屋台上部の米俵の上に大国像が鎮座しており、くじで決める屋台の曳行順が前方だとお米は高くなり、後方だとお米が安くなるという言い伝えもあります。彫刻が立派な麒麟台(きりんたい)は、春秋の高山祭を通して一番装飾が多い屋台といわれ、麒麟や唐子群遊彫刻などは、地元出身の彫刻家 谷口与鹿が3年がかりで製作した大作です。

春の屋台のうち、3台にはからくり人形が載せられています。その中の1台、龍神台(りゅうじんたい)は謡曲「竹生島」に登場する龍神が屋台名の由来です。唐子が運んだ壺の中から龍神が現れ、紙吹雪をあげながら舞い踊ります。これらのからくりは、「からくり奉納」として御旅所前の広場にて、順番にそれぞれの屋台の上で複数人の人形師が糸を巧みに操って演技を披露し、広場は歓声に包まれます。


新しい交流が生まれる場所

古くからの伝統や文化が色濃く残る高山ですが、新たな試みも多く生まれています。

からくり奉納も行われる御旅所前から徒歩2分の場所に、今年初め新たにオープンした小さなホテルが“cup of tea ensemble”です。このホテルを手掛けた「プロジェクトチームDONNA(ダナ)」は、Uターンを含む高山出身の30代の若手3名が設立したまちづくりの企画を行うグループで、「HIDAを21世紀型の持続可能な地方都市にアップデートする」というミッションの下、「あるものをいかす」というコンセプトから生まれたホテルです。“cup of tea”には、「日本人が一杯のお茶に込めるゲストをもてなす気持ち」、「ゲストにとってのcup of tea(自分の好み)になってほしい」という思いが込められています。

隙間から光が漏れて温かみを感じる外壁や扉、室内の家具まで、いたるところに使用されている材は、飛騨地域で伐採された間伐材の角材を張り合わせてつくったもので、不規則な隙間がアクセントになっています。あるものをいかし、古いものと新しいものを融合させた新たなホテル名の“ensemble”に込められたのは、「ホテルに関わる多くの方々がアンサンブル(合奏・合唱)を奏でてほしい」という想いです。通りに面する大きな窓から見える共有の多目的スペースは、宿泊客の他、地域にも解放されたコミュニティスペースで、イベント等の開催を通して交流を生み、人々をつなぎます。

 

今年の山王祭は規模が縮小されてしまいましたが、秋に行われる八幡祭や、高山の文化が薫る街並みを散策する拠点として、ご利用されてみてはいかがでしょうか。


ご家族やグループで一緒に泊まれる宿
cup of tea ensemble

豊富な森林資源に恵まれた飛騨地域の「あるもの」を、飛騨産業が100年かけて培ってきた技術によって、空間表現しています。

客室は、4 人部屋と6 人部屋。

飛騨の県産材と、岐阜県の伝統的な柿渋染めにより製作したオリジナルベッドを中心に、シンプルでありながらも、機能的な設えになっています。

 

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